池上(いけがみ)四郎は/鹿児島(かごしま)の士族(しぞく)/にして武勇(ぶゆう)の人(ひと)たり西郷(さいがう)と倶(とも)に熊本(くまもと)に/出張(しゅっちゃう)し一方(いつばう)の将(しやう)として各所(かくしょ)に戦(たゝか)ひ官兵(くゎんへい)と/抗撃(かうげき)せしも御舟(みふね)の敗走(やぶれ)に重痍(おもで)を負(お)ひ割腹(かっぷく)/して果(はて)しとぞ
桐野利秋(きりのとしあき)は鹿児島(かごしま)の人始(ひとはし)め/姓(せい)を中村(なかむら)という人(ひと)なり強壮(ごうそう)にして武(ぶ)に長(ちゃう)ず維新(いしん)の際(をり)/軍(ぐん)に従(したが)ひ屢々(しば〱)大功(たいこう)あるを以(も)て追々(おひ〱)登進(とうしん)し遂(つひ)に陸軍(りくぐん)/少将(せう〱)に挙(あげ)らる始(はじ)め西郷(さいがう)と其中(そのなか)和(くわ)せず征韓論(せいかんろん)発(おこ)りて/西郷と論(ろん)を同(おな)じうするを以(も)て無二(むに)の党(とう)となり隆盛(たかもり)職(しよく)を/辞る際(とき)倶(とも)に辞して帰国(きこく)なし遂(つひ)に今回(こたび)の暴動(ばうどう)に/及(およ)びしとぞ
淵邊高照(ふちべたかてる)は悍強(ひゃうがう)にして武(ぶ)に/達(たっ)し戊辰以来(ぼしんいらい)各所(かくしよ)の戦場(せんぢやう)を/経て功(こう)あるを以(も)て一度(ひとたび)官(くわん)に進(すゝ)みしも頑固(ぐゎんこ)/にして方向(はうこう)を違(たが)へ西郷(さいかう)桐野(きりの)等(ら)と熊本(くまもと)に出兵(しゆつへい)し/士卒(しそつ)を指揮(しき)する事(こと)手足(しゆそく)の如(ごと)く/之がため官軍(くわんぐん)苦戦(くせん)する事(こと)数(す)/度(ど)されど久(ひさ)しく天兵(てんへい)に抗(こう)ずる事(こと)をえんや
西郷(さいがう)小平(こへい)は文武(ぶんぶ)に達(たつ)し頗(すこぶ)る才器(さいき)あり暴徒等(ばうとら)出軍(しゆつぢん)の前(ぜん)/熊本城(くまもとじやう)を陥(おとしい)るの戦畧(せんりやく)を述(のぶ)ると雖(いへども)隆盛(たかもり)之(これ)を用(もち)ひず兵(へい)は/を先(さき)にす我(われ)大(たい)/軍(ぐん)を帥(ひきひ)て東上(とうじやう)すと声言(せいげん)せば/熊本(くまもと)の如(ごと)きは風(ふう)を望(のぞ)んで/潰散(□□さん)せんと云(い)ひたりしと/ 小平は熊本(くまもと)にて戦死(せんし)なしたり
西郷隆盛(さいがうたかもり)は吉之助と称(しらせ)す其才(そのさい)非凡(ひぼん)にして/ 和漢(わかん)の学(がく)に通(つう)ず嘗(かつ)て尊攘(そんじやう)の説(せつ)を称(とな)へ交(ましは)りを/四方に結(むす)び艱難(かんなん)を/経て終(つひ)に幕府(はくふ)を仆(たを)し王政(わうせい)を復古(ふつこ)なす其功(そのこう)/莫太(ばくたい)なるを以て正三位(み)陸軍(りくぐん)の大将(たいしやう)に挙(あげ)らる/然るに征韓論(せいかんろん)の用(もち)ひられざるを以(もっ)て職(しょく)を辞(じ)して/帰国(きこく)なし暴徒(ばうと)の巨魁(きよくわい)となつて千歳(せんさい)に惡名(あくみやう)残(のこ)す惜(をしむ)かな
村田(むらた)新八(しんはち)は鹿児島(かごしま)の士人戊辰(ぼしん)の際(さい)功(こう)あるを以(も)て官途(くわんと)に進(すゝ)み/且洋行(やうこう)して兵(へい)を学(まな)び帰朝(きてう)の後(のち)西郷(さいがう)と倶(とも)に辞職(じしよく)して/国にかへり今回(こんくわい)暴徒(はうと)の一将(いつしやう)として各所(かくしょ)に於(おいて)天兵(てんへい)と抗戦(こうせん)す
町田(まちだ)啓(けい)次郎は旧(もと)佐土原藩(さとはらはん)知事(ちじ)/三男たり西郷(さいごう)兵(へい)を挙(あぐ)ると/聞佐土原(さどはら)始(はじ)め延岡(のべをか)飫肥(おひ)髙鍋(たかなべ)等(とう)の士族(しぞく)を/煽動(せんどう)して自(みづか)ら将(しやう)となり薩兵(さつへい)と倶(とも)に熊本(くまもと)へ/繰出(くりいだ)し蟷斧(たうふ)をあげて天兵(てんへい)と抗戦(こうせん)す
前原一格(まえばらいつかく)は長州(ちやうしう)の/士族(しぞく)前原一誠(まえばらいつせい)の/末弟(□□てい)たり兄(あに)一誠/捕縛(ほばく)のをり薩州(さつしう)に潜(ひそ)みしが今回(こたび)の暴挙(ばうきよ)を/幸ひとし熊(くま)本に出張(しゆつちやう)し我姓名(わがせひめい)/白布(しろぬの)に書(しよ)したるを襷(たすき)にかけ/いつも真先(まっさき)に進(すゝ)ん勇戦(ゆうせん)にすとぞ
篠原国幹(しのはらくにもと)は鹿児島(かこしま)の士族(しぞく)たり/其性(さが)温和(おんくわ)にして文武(ふんぶ)に長(ちやう)ず/嘗(かつ)て勤王(きんわう)の志(こころさ)し深(ふか)く各所(かくしよ)に/戦功(せんこう)あり維新(いしん)の後(のち)陸軍(りくぐん)/少将(せう〱)を拝命(はいめい)/せしが退(しりそい)て帰(き)/国なす兼(かね)て隆盛(たかもり)と無二(むに)の/友たり西郷(さいごう)事(こと)を議(ぎ)すに先(まづ)国幹(くにもと)/と計(はか)り意(い)快(けつ)(決カ)して後(のち)桐野(きりの)村田(むらた)/等に話(わ)すといふ今回(こたび)暴徒(はうと)先鉾(さきて)の/将として肥後(ひご)熊本(くまもと)に出張(しゆつちやう)し/ 熊城(じやう)を囲(かこ)み猶(なほ)植木(うえき)田(た)原坂(ざか)に攻撃(こうげき)し/𠮷次越(きちじこえ)の戦(たゝか)ひに炮玉(はうきよく)に中(あた)りて/落命(らくめい)す