By nakamura, 5 7月, 2024

人命(じんめい)を殞(をと)すは是則(これすなは)ち阱(おとしあな)を国中(こくちう)に作(つく)るの/制方(せいはう)ならん是(これ)等(ら)国(こく)事(じ)の成敗(よしあし)を過(すぎ)し/明治六年十月の会議(くわいぎ)の席(せき)にて建議(けんぎ)せしも/御採用(ごさいよう)にも成(な)らざるゆえ臣(しん)其職(そのやく)にありて/その言(こと)を入(いれ)たまはぬ上(うへ)からは某(それがし)ありて/何(なん)の益(えき)かあらんと職(やく)を辞(し)し古郷(こきゃう)に帰(かへ)り不肖(ふせう)ながらも壮年輩(わかものはら)の/ために私学校(しかくかう)を設立(まう)け文武(ぶんぶ)の道(みち)を講究(こうきゅう)せしめ治(ぢ)世に乱(らん)を/忘(わす)れざる報国(はうこく)の心深(こゝろふか)きより折(をり)ふし山(さん)野(や)に跋渉(かけまは)り壮年(わかもの)原を打集(うちつど)ひ/練兵(れんへい)の学(まな)びもいたせしに政府(せいふ)痛(いた)くも是(これ)を疑慮(ぎねん)有(あつ)てか本年二月十日の夜(よ)/某(それかし)が住邸(すまひ)の床下(せうした)に何奴(なにやつ)なるか忍(しの)び入(い)り我(われ)を切害(せつかい)/なさんとする者(もの)あり早(はや)くも捕(とら)へて拷問(がうもん)せしに豈(あに)はからんや/貴臣(きしん)の秘(ない)命を受(う)け帰省(きせい)を名(な)として県地(けんち)に来(きた)り某(それがし)を暗殺(あんさつ)せんと/謀(はか)りしなりと逐(ちく)一白状(はくでう)に及(およ)びし上(うへ)は何等某(なんらそれがし)に罪(つみ)あるにもせよ/其罪(そのつみ)を問(と)ひ糺(たゞ)さずして人(ひと)を暗殺(あんさつ)する無憲(むけん)の制方(せいはう)あるべきや天若(てんも)し/吾(われ)を助け玉はざれば吾(わが)一身(しん)のみならず非(ひ)命を遂(とく)る者(もの)多(おほ)かるべし/左(さ)する時は彼(かれ)が横行(わうぎゃう)止時(やむとき)なく斯(か)くなる末(すえ)は恐多(おそれおほ)くも聖体(せいたい)の御安否(こあんび)は/申(まをす)も更(さら)なり吾(わが)皇国(くわうこく)の顛覆(てんぶく)する過楷(ふきつ)ぞ爰(こゝ)に萠(きさ)せるなれば如何(かで)沈黙傍観(みぬふり)する時(とき)ならんや吾(われ)上京(じゃうきゃう)なし/事の始終(しまつ)を奏問(そうもん)なし曲直(きょくちょく)明裁(さい)の聖断(せいたん)を仰(あふ)き奉らんと思(おも)ひしかば熊本城下迄(くまもとしゃうかまで)出(しゅつ)馬到(いた)せしに豈(あに)計(はか)らん/や半途(はんと)にて官士(くわんし)のために遮(さえぎ)られ空(むな)しく月日を経(へ)るまゝに斯(かゝ)る場(ば)合に立至(たちいた)りしなりと事の始終(しまつ)と身の/成行(なりゆく)を包(つゝ)まず言上(ごんしゃう)いたせしに主宰(かみ)にはなほも言辞(ことば)をやはらげ宣(のたま)ふやう汝(なんぢ)が只今申述(いふ)るが如(こと)く一々尤(もっとも)には/聞(きこ)ゆれども能(よく)思ふても見られよ日本国三千万人の主眼(めあて)たる政府(せいふ)にて汝(なんぢ)一個(ひとり)を悪むべきゆうや/有まじ汝(なんぢ)も又身の行跡(おこなひ)は勿論(もちろん)心中(のうち)少(すこし)も犯(おか)せる罪(つみ)なくば何(なん)ぞ暗殺(あんさつ)を受(うけ)べき陰報(いんはう)はなかるべし/今汝(なんぢ)が口実とする暗殺(あんさつ)は跡方(あとかた)もなき夢(む)中の暗察(あんさつ)にしてよしや汝(なんぢ)を暗殺(あんさつ)せんと謀(はかり)し事(こと)の有にも/せよ汝(なんぢ)は去(さんぬ)る年跡(あと)を暗(くら)まし古郷(くきゃう)に帰(かへ)り山に伏(ふし)野に隠(かく)れ隠者(いんじゃ)の隠(いんぼう)謀(いんぼう)分(わか)らねば素(もと)同郷(とうきゃう)の/よしみある友情(ゆんじゃう)は別(わけ)ても深き者(もの)なればたとへ夢(む)中の夢(ゆめ)にもあれ汝(なんぢ)の身の祥(さが)いかゞやと暗察(あんさつ)するも/ことはりならずや理非曲直(りひきょくちょく)の峽(ちまた)には迷(まよ)へる事(こと)も有(ある)もの也仮(たとへ)令ば視察(しさつ)を刺殺(しさつ)ときゝ暗察を暗殺(あんさつ)と/思ひ違(たがへ)る事もあるべし今汝(なんぢ)が惑(まど)ひは此ニつを聞違(きゝたがひ)思ひ過(あやま)るよりして夢解(むかい)なる事(こと)に怒(いか)りを/起(おこ)し夢裏夢体(むりむたい)なる意気(いき)地を張(はり)夢敵(むてき)の戦争(せんそう)なさずとも理非曲直(りひきよくちょく)の明裁(さい)は此主宰(かみ)が一々/神断(だん)すべし然(しか)る後(のち)は相互残夢(あひたがひざんむ)を覚(さま)して一向(ひたすら)に信義(しんぎ)を以て日の本の帝(てい)王陛(へい)下/を補翼(ほよく)して富国強(きゃう)兵下民をして安堵(あんど)の思ひを計(はか)るべしいざ曲直(よしあし)の明裁(さばき)/せんと神位威(いけ)高く坐(ざ)を占(しめ)玉へば隆盛思はず神威(い)に伏(ふ)し一句も得言(えいは)ず/して主宰(かみ)の明裁(おさばき)其理(り)を得(え)ればいかでか神慮(りょ)に背(そむ)き奉(たてまつ)らんと御受(うけ)申て/隆盛は頭(かしら)を下(さ)げて謹格(つゝしみ)深くそ見へければ主宰(かみ)は御声(こえ)高く隆盛汝(なん)ぢ無(む)/根の流言(うはさ)を証(しょう)とし非謀(ひはう)を企(くわだつ)る罪表(つみおもて)に辞弁(べんぜつ)を以てするも其行跡(おこない)の上に於(おい)て/疑敷(うたがはしき)事数々(かず)あり今其一二の罪目(ざいもく)を問(とは)ん若(もし)も其申開(ひら)き遅々(えん□ん)に及び曖昧(あいまい)たる/答弁(こたへ)と聞請(きゝうけ)れば其坐を寸歩(いっすん)も動(うご)かさず厳(きひし)き刑法(けいほう)に処(しょ)すべきなり先其第一は汝(なんぢ)/暗殺(あんさつ)を以て口実として上京なし事(こと)の原由(おこりを)政府に尋問(じんもん)する本意(ほんい)なれば何ぞ兵/器(き)を数(あま)多携(たづさ)へ兵隊(たい)を引率(いんぞつ)するに及(およ)べるや随身(みぶん)相当(さうたう)の從僕(ともびと)を具(ぐ)して上京する/に誰(たれ)か汝(なんぢ)の通路(つうろ)を遮(さへぎ)るものあらん暗殺(あんさつ)するものなくとも汝(なんち)暗(あん)殺(さつ)を受(うけ)る程(ほど)の罪(つみ)を/犯(おか)せる覚(おぼ)へ汝の腹(ふく)中に有を以て多くの兵を引連れ其身の陰事(いんじ)を蔽(かく)さんため/なるか又汝(なんぢ)が持(もち)出したる銃器弾薬(じうきだんやく)大砲等の兵器(き)等は何者(もの)の所有(いう)物なるや汝(なんち)/陸軍大将の任(にん)にもせよ私に兵器(へいき)を貯備(たくはへ)る条(こと)は有まじき法之先此返答(へんとう)は如何(いかゝ)と/責問(せめとは)せられしとなり」隆盛が是(これ)より後(のち)毎条(でう)の申開は/次の絵をみて知(しり)玉ふべしと云(いふ)も夢(ゆめ)をしき事(こと)ならすや

資料集掲載番号
283
受入番号
1990-032-191
西南戦争錦絵判型
大判錦絵二枚続
作者
羽田富次郎
彫師
彫師未詳
賛署名
笑門舎筆
版元名
多賀甚五郎
版元住所
新乗物町十九番地
届出日
明治十年九月三日届出
左中右 上中下1
本紙1横
24.00
左中右 上中下2
本紙2竪
35.70
本紙2横
24.00
本紙1竪
35.80
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UUID
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