泉々堂迂人戯記 えゝお恐(おそ)れながら抑(そも〱)今度(こんど)の西国(さいこく)騒(さわ)きは。聞(きい)て極悪(ごくあく)。みては地獄(ぢごく)のしゆらの巷(ちまた)で。ちよん〱桐野(きりの)や玉(たま)の飛ぶのは/すきまもない程(ほど)。雨(あめ)の篠原(しのはら)。はつと逃(にげ)るはむら〱村田(むらた)や。不平(ふへい)の生徒(せいと)をお先(さき)につかつて頓(やが)て西郷(さいご)のうんの/つきの輪(わ)。打(うた)れて亡(ほろ)びる熊本(くまもと)県下(けんか)で終(つひ)には晒(さら)さる川尻口(かはじりぐち)をば本陣(ほんぢん)仁義(ぎんき)を施(ほどこ)すなんどゝ。大(おお)きな螺貝(ほらかひ)/吹(ふい)てばら〱吹散(ふきち)る木(こ)の葉(は)の集(あつま)り勢(ぜい)めに。篝(かかり)を高瀬(たかせ)と山鹿(やまが)の夜軍(よいくさ)。どん〱やれども錦(にしき)の御旗(みはた)の/光(ひか)りにや叶(かな)はぬ。こいつは又(また)玉種(たまたね)おひ〱尽(つき)はてさやをはづして。ふんどし帯(おび)からぶらり下(さが)つた/大(おほ)きなだんびら。ふり廻(まは)しながら切込(きりこむ)中(なか)には。素(す)肌(はだ)を脱(ぬい)だる手(て)負(おひ)の猪(いのしゝ)。武者(むしゃ)ぶり付(つく)やらひつかき/あふやら。書生(しょせい)羽織(ばおり)の薩摩(さつま)ぢやなけれど。大(おほ)きなかすりの疵(きず)にもめげ/ずに。あばれ廻(まは)るは野蛮(やばん)な事(こと)だよ。やれ〱〱〱えんやら厄介(やっかい)。素算(そざん)の死賊(しぞく)が/命(いのち)の鍔(つば)ぎは。はだかであがるはえらい土俵(どへう)の田原坂(たはらざか)では台場(だいば)を/とられて。ひしやけた花岡(はなをか)やまへあがつて見(み)おろす城中(しゃうちう)は。堅(けん)固(ご)に/守(まも)つて落(おち)る気色(けしき)も。内外(ないくわい)ぎつしり海陸(かいりく)とりまく兵士(へいし)の威光(いくわう)/に。力(ちから)はなくなる。お金(かね)もなくなる。こんなことでは長持(なかもち)どころかたんすも/衣類(きもの)も。おいたまんまで身(み)ぐるみ逃(にげ)たる県下(けんか)の百姓(ひゃくしゃう)町人(ちゃうにん)/なんどを。ひつこきつかつて払(はら)ひも紅(くれな)い。血汐(ちしほ)にそまつた/死骸(しがい)をのせては。荷(にな)ふ戸板(といた)と大分(おほいた)県(けん)下(か)と。長崎(ながさき)県下(けんか)の。口々(くち )/なんどへ出(で)かけた奴(やつ)らも追々(おひ)引込(ひつこむ)。/身(み)しらず生徒(せいと)は飛(と)んで火(ひ)に入(い)る/夏虫(なつむし)同前(どうぜん)。卯月(うつき)八日も程(ほど)なく/くるから。鹿児島勢(かごしませい)をば征伐(せいばつ)しと/げて。甘茶(あまちゃ)の兵士(へいし)は諸国(しょこく)へ引あげ。/頓(やが)て目出度(めでたく)栄(さか)ふは今(いま)の間(ま)穏(おだ)やかになる西海(さいかい)の波(なみ)あみだ〱〱〱/お祝(いは)びに遊(あそ)べるどんたく時(じ)の御吉報(ごきつぱ)う。角力(すまふ)じんくのすちゃらか〱ぽく〱〱〱〱
資料集掲載番号
312
受入番号
2014-001-1
西南戦争錦絵判型
大判錦絵
彫師
彫師未詳
賛署名
泉々堂迂人筆
版元名
福田熊次郎
版元住所
長谷川町二十番地
届出日
明治十年三月二十四日届出
本紙横
25.80
本紙竪
37.10
iiif_direction
right-to-left
UUID
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