By nakamura, 5 7月, 2024

軒端(のきは)を誘(さそ)ふ小嵐(こがらし)も最物凄(いとものすご)き 二更(こう)の頃灯火(とうくは)の光(ひか)りも消(きへ)なん〱 として薄暗(うすくら)き広々(くはう〱)たる宮殿(きうてん)に 居並(いなら)ぶ勇士は何(なん)人ぞと透(すか)し見(み) るに先頃(さきごろ)鹿児島の城山亡(ほろ)びたり し逆将(きゃうしゃう)西郷隆盛以下の輩(ともがら)なり 各々一度(おの〱ひとたび)薩隅日肥(きんごく)を横行(おうぎゃう)して暴(ほう) 威(い)を振(ふる)ふと雖(いへど)も日章(につしょう)の簱風(はたかぜ)に 吹(ふき)なびかされて草葉(くさば)の露(つゆ)と消失(きへうせ)し が魂魄猶其志意(こんぱくなをそのこゝろざし)を変(へん)せず地中(ちゝう)を 分巡(わけめぐ)って地獄(ちごく)に赴(おもむ)き再度事(ふたゝびこと)を発(おこさ) んとの目的(もくてき)にして閻魔王(えんまわう)に逼(せま)って出(しゅっ) 兵(ぺい)を乞(こ)ふの体(さま)なり身体全(しんたいまった)くして 勝(しゃう)を得(え)ざりし者何(ものなん)ぞ魂(たましい)と成(なっ)て何事(なにこと)が 仕出来(でかさ)ん哉(や)と抱腹大笑(はうふくたいせう)の折(おり)から寝耳(ねみゝ) に響(ひゞ)く時計(とけい)ちん〱目覚(めさめ)て見(み)れ机上(きじゃう)に 思(おも)はず一睡(

By nakamura, 5 7月, 2024

閻王怒て曰今東洋の一隅日本の西端に/生を保つ西郷隆盛は過年月照と共に我冥/府へ移らんとすれ共隆盛一人未命数尽依て当/府は入籍を不許且勤王の強志有るを以人をして/助しめたり於是一新の際大に用られ昇登数度にして/今日陸軍大将大任に登り又参議を兼たり然/るに彼逆謀を企て官軍に抗するの色あり速に/討すべきの所彼命数未た尽ず冥庁拘引成/難しと雖又万民の困脳を打捨べきにも不有/依て四五名の鬼員に命じ隠に生命を害すべき/の令を伝へて沙婆界へ送れり爰に隆盛は/数月の戦争昼夜を不分るにまどろむと無しに熟/睡の夢に四五名の鬼卒来って我生を害はんと/なすと見て夢覚たり慨然として衆賊に向ひ我/今日まてなす所大に小論たり明日より攻道を/転せんと是則明治十年九月二十四日鹿児島近傍/の城山に於て勢を纏めて冥府尋問の筋ありと称/して惣勢一時に黄泉県へと出発し閻府に達し是を/陥れ閻王を圧倒し我今より永く冥府の王たらんと

By nakamura, 5 7月, 2024

実(げ)に世(よ)の中(なか)に人のこゝろは 替(かえ)に安(やず)き者(もの)ならん其時(そのとき) 忠臣(ちうしん)ゆうべに不義(ふぎ)なる事(こと)はりを 昔(むかし)より伝(つた)へける冝(むべ)なるかな 曩(さき)に江藤(えとう)新平(しんへい)前原(まいはら)なる者(もの) 暴挙(ばうきょ)におよび又も西郷隆盛(さいがうたかもり) 筑(つく)紫の波涛(なみ)にたゞよひて 叡慮(えいりょ)に背(そむ)き人民(じんみん)をして万(ばん) 苦(く)せしめけり昔莫勇私有(むかしはくゆうしいう) といへども王師(わうし)にそむかず誰(たれ) 天慶(てんけい)に将門元弘(まさかどもとひろ)建武(けんぶ)の乱(らん)に 北條足利(ほうじゃうあしかゞ)しは〱官旗(くゎんき)に むかひて名義(めいぎ)をうしなへり 嗟呼(あゝ)正成(まさしげ)新田(にった)の良将(りゃうしゃう)は 勤王(きんわう)を変(へん)ぜずして勇能(ゆうよ)く 討死(うちじに)を遂(と)げられしは最(いと)も 憂(うれ)たる事(こと)ならずや 正美しるす

By nakamura, 5 7月, 2024

西郷(さいがう)がある夜(よ)の夢(ゆめ)に白髪(はくはつ)の 老翁(らうをう)一人枕辺(まくらべ)に現(あら)はれ いかに西郷隆盛(たかもり)今度(こたび)政府(せいふ)に 向(むか)って事(こと)を挙(あぐ)るよし八百 万の神々(かみ)深(ふか)く感応(かんおう)まし〱 汝に弾薬(だんやく)を授(さづ)け玉ふ其(その) 兆(しるし)には両三日を過(すぎ)てなば一つの 大蛇汝(おろちなんぢ)の目前(もくぜん)に現(あらは)るべし 鉄砲(てっぱう)を以て打(うつ)べからず刀(かたな)を 把(とっ)て切(き)るべしと告(つぐ)ると思(おも)へば 夢覚たり両三日を過(すぎ)つれば 大蛇西郷の前に現(あら)はれたれば 扨(さて)こそ夢の告なりと刀を 以て切るに十万の弾丸硝薬(だんぐゎんせうやく) となりしと賊の隊長連(たいちゃうれん)が 触(ふれ)ちらしたといふが稗史小説(くさざうし) にでもなりそふな馬廉(ばか) 気(げ)た咄(はな)しでは王座(ござ)らぬか

By nakamura, 5 7月, 2024

人命(じんめい)を殞(をと)すは是則(これすなは)ち阱(おとしあな)を国中(こくちう)に作(つく)るの/制方(せいはう)ならん是(これ)等(ら)国(こく)事(じ)の成敗(よしあし)を過(すぎ)し/明治六年十月の会議(くわいぎ)の席(せき)にて建議(けんぎ)せしも/御採用(ごさいよう)にも成(な)らざるゆえ臣(しん)其職(そのやく)にありて/その言(こと)を入(いれ)たまはぬ上(うへ)からは某(それがし)ありて/何(なん)の益(えき)かあらんと職(やく)を辞(し)し古郷(こきゃう)に帰(かへ)り不肖(ふせう)ながらも壮年輩(わかものはら)の/ために私学校(しかくかう)を設立(まう)け文武(ぶんぶ)の道(みち)を講究(こうきゅう)せしめ治(ぢ)世に乱(らん)を/忘(わす)れざる報国(はうこく)の心深(こゝろふか)きより折(をり)ふし山(さん)野(や)に跋渉(かけまは)り壮年(わかもの)原を打集(うちつど)ひ/練兵(れんへい)の学(まな)びもいたせしに政府(せいふ)痛(いた)くも是(これ)を疑慮(ぎねん)有(あつ)てか本年二月十日の夜(よ)/某(それかし)が住邸(すまひ)の床下(せうした)に何奴(なにやつ)なるか忍(しの)び入(い)り我(われ)を切害(せつかい)/なさんとする者(もの)あり早(はや)くも捕(とら)へて拷問(がうもん)せしに豈(あに)はからんや/貴臣(きしん)の秘(な

By nakamura, 5 7月, 2024

【上よりつゞき】汚(を)名を受(うけ)し某(それがし)をも忌(いみ)たまはず浅(あさ)からぬ/御神言(しんげん)隆盛(たかもり)身(み)にとり生前の面目(めんぼく)是にすぎずと/謹(つゝしん)で言(ごん)上なせば猶(なほ)神宣(しんせん)ありて曰(いは)く汝(なんぢ)明治の初(はじ)め/日本帝(てい)王を補翼(ほよく)て国事(こくじ)に粉骨(ふんこつ)し報(はう)国の義名(ぎめい)を/挙(あ)げ勲功(くんこう)第一等たる身(み)を以て今日/暴徒(ばうと)の巨魁(かしら)となり国乱(らん)を起(おこ)し許多(あまた)の/人命(めい)を殞(そん)ぜし汝(なんぢ)の挙動(きょどう)は如何(いか)なる/心根(こゝろね)なるぞや時儀(じぎ)に因(よっ)ては天戮(りく)免(のか)るべからず是みな/主宰(かみ)の不徳(ふとく)によれりと昼夜(ちうや)の憂慮(ゆうりょ)止(やむ)時なし先(さき)つ日より/汝が心意(しんい)を聞(きか)まほしく覚(おぼ)ゆれど世界万種(かいばんてん)の主宰(かみ)にて魯土(ろと)/戦争(せんそう)の事だにも捨(すて)おきがたき事(こと)なれば裁断(さいだん)せんとの神慮(しんりょ)を/配(くば)りし折(をり)から故思(ゆえおも)ふにまかせぬ神(かみ)の身(み)の上(うへ)幸(さいは)ひ今斯(か)く文武(ぶ)の/百官(くわん)左右(さいう)の大臣(じん)参内(さ

By nakamura, 5 7月, 2024

西郷隆盛(さいがうたかもり)夢中(ゆめ)に万造主宰(ぞうぶつしゃ)に逢心根(あひこゝろね)を上聞(まうしあげ)せし事(こと)/夢(ゆめ)の世(よ)に夢(ゆめ)ならぬ身(み)のいたづらを悔(くゆ)る時(とき)こそ夢(ゆめ)は覚めけりと/云(いへ)るためしを今這(いまこゝ)に西郷隆盛(さいがうたかもり)には此程(このほど)の戦争止時(せんそうやむとき)無(な)く/身(み)は川尻(かはじり)に本(ほん)陣(じん)を張(は)り一万有余(いちまんいうよ)の兵士(へいし)をして己(をの)が四肢(てあし)/を動使(うごかす)が如(ごと)くにて屢(しば)王師(わうし)に抗(てき)ずるも撓(たわ)む色(いろ)たに少(すこし)も/なく其身(そのみ)は強(しい)て戦地(せんち)に臨(のぞ)まずと雖(いへど)も計策(はかりごと)を幃幄(とばり)の/中(うち)に廻(めぐ)らし勝(かつ)事を千里(せんり)の外(ほか)に決(けっ)する張良気位(ぐんしきどり)にて/戦事(せんじ)の暇(ひま)には桐野其他(きりのそのほか)の将校(たいしゃう)と終日棋盤(しうじつごばん)を打囲(うちかこ)み或(あるい)は/遊獵(ゆうりゃう)を娯(たの)しみ居(い)ける其膽略(そのたんりゃく)の広大(くわうだい)にして味方(みかた)の諸将(もの)にも計(はか)り/知(し)るべきにあらずといふ頃(ころ)は二月(きさらぎ)の末(すえ

By nakamura, 5 7月, 2024

人命(じんめい)を殞(をと)すは是則(これすなは)ち阱(おとしあな)を国中(こくちう)に作(つく)るの/制方(せいはう)ならん是(これ)等(ら)国(こく)事(じ)の成敗(よしあし)を過(すぎ)し/明治六年十月の会議(くわいぎ)の席(せき)にて建議(けんぎ)せしも/御採用(ごさいよう)にも成(な)らざるゆえ臣(しん)其職(そのやく)にありて/その言(こと)を入(いれ)たまはぬ上(うへ)からは某(それがし)ありて/何(なん)の益(えき)かあらんと職(やく)を辞(し)し古郷(こきゃう)に帰(かへ)り不肖(ふせう)ながらも壮年輩(わかものはら)の/ために私学校(しかくかう)を設立(まう)け文武(ぶんぶ)の道(みち)を講究(こうきゅう)せしめ治(ぢ)世に乱(らん)を/忘(わす)れざる報国(はうこく)の心深(こゝろふか)きより折(をり)ふし山(さん)野(や)に跋渉(かけまは)り壮年(わかもの)原を打集(うちつど)ひ/練兵(れんへい)の学(まな)びもいたせしに政府(せいふ)痛(いた)くも是(これ)を疑慮(ぎねん)有(あつ)てか本年二月十日の夜(よ)/某(それかし)が住邸(すまひ)の床下(せうした)に何奴(なにやつ)なるか忍(しの)び入(い)り我(われ)を切害(せつかい)/なさんとする者(もの)あり早(はや)くも捕(とら)へて拷問(がうもん)せしに豈(あに)はからんや/貴臣(きしん)の秘(な

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【上よりつゞき】汚(を)名を受(うけ)し某(それがし)をも忌(いみ)たまはず浅(あさ)からぬ/御神言(しんげん)隆盛(たかもり)身(み)にとり生前の面目(めんぼく)是にすぎずと/謹(つゝしん)で言(ごん)上なせば猶(なほ)神宣(しんせん)ありて曰(いは)く汝(なんぢ)明治の初(はじ)め/日本帝(てい)王を補翼(ほよく)て国事(こくじ)に粉骨(ふんこつ)し報(はう)国の義名(ぎめい)を/挙(あ)げ勲功(くんこう)第一等たる身(み)を以て今日/暴徒(ばうと)の巨魁(かしら)となり国乱(らん)を起(おこ)し許多(あまた)の/人命(めい)を殞(そん)ぜし汝(なんぢ)の挙動(きょどう)は如何(いか)なる/心根(こゝろね)なるぞや時儀(じぎ)に因(よっ)ては天戮(りく)免(のか)るべからず是みな/主宰(かみ)の不徳(ふとく)によれりと昼夜(ちうや)の憂慮(ゆうりょ)止(やむ)時なし先(さき)つ日より/汝が心意(しんい)を聞(きか)まほしく覚(おぼ)ゆれど世界万種(かいばんてん)の主宰(かみ)にて魯土(ろと)/戦争(せんそう)の事だにも捨(すて)おきがたき事(こと)なれば裁断(さいだん)せんとの神慮(しんりょ)を/配(くば)りし折(をり)から故思(ゆえおも)ふにまかせぬ神(かみ)の身(み)の上(うへ)幸(さいは)ひ今斯(か)く文武(ぶ)の/百官(くわん)左右(さいう)の大臣(じん)参内(さ

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西郷隆盛(さいがうたかもり)夢中(ゆめ)に万造主宰(ぞうぶつしゃ)に逢心根(あひこゝろね)を上聞(まうしあげ)せし事(こと)/夢(ゆめ)の世(よ)に夢(ゆめ)ならぬ身(み)のいたづらを悔(くゆ)る時(とき)こそ夢(ゆめ)は覚めけりと/云(いへ)るためしを今這(いまこゝ)に西郷隆盛(さいがうたかもり)には此程(このほど)の戦争止時(せんそうやむとき)無(な)く/身(み)は川尻(かはじり)に本(ほん)陣(じん)を張(は)り一万有余(いちまんいうよ)の兵士(へいし)をして己(をの)が四肢(てあし)/を動使(うごかす)が如(ごと)くにて屢(しば)王師(わうし)に抗(てき)ずるも撓(たわ)む色(いろ)たに少(すこし)も/なく其身(そのみ)は強(しい)て戦地(せんち)に臨(のぞ)まずと雖(いへど)も計策(はかりごと)を幃幄(とばり)の/中(うち)に廻(めぐ)らし勝(かつ)事を千里(せんり)の外(ほか)に決(けっ)する張良気位(ぐんしきどり)にて/戦事(せんじ)の暇(ひま)には桐野其他(きりのそのほか)の将校(たいしゃう)と終日棋盤(しうじつごばん)を打囲(うちかこ)み或(あるい)は/遊獵(ゆうりゃう)を娯(たの)しみ居(い)ける其膽略(そのたんりゃく)の広大(くわうだい)にして味方(みかた)の諸将(もの)にも計(はか)り/知(し)るべきにあらずといふ頃(ころ)は二月(きさらぎ)の末(すえ