紅花烟中(こうくわえんちう)に飛(と)び青柳風前(せいりうふうぜん)に櫛(くしげづ)る 翠黛蛾眉(すいたいがび)昨日(きのふ)縫裁(たちぬい)する掌(て)にて 今日(けふ)は白刃(しらは)を打振(うちふる)ふ心(こゝろ)も猛(たけ)き武夫(ものゝふ) の妻妾死(つましん)で逢(あ)ふ瀬(せ)を仮(かり)の夢(ゆめ)さ してよるベも白妙(しろたへ)の肌(はだ)さへ寒(さむ)き 春(はる)の夜(よ)に慣(なれ)し薩摩(さつま)の空(そら)たへて 親(おや)や我児(わがこ)に生別(いきわか)れ月日(つきひ)も長(なが)き 黒髪(くろかみ)を後(うしろ)の方(かた)へ結(むす)びつけ襷(たすき)十 字(じ)に綾千鳥白柄(あやちどりしらへ)の長刀振袖(なぎなたふりそで)の模(も) 様(やう)はいとゞ窕女(たをやめ)が夫(おっと)に隨(したが)ひ兄(あに)に 続(つゞ)き死(しね)ば共(とも)にと従軍(いでたち)は昔(むかし)の巴(ともへ) 板額(はんがく)もかくやと想(おも)ふ形粧(すがた)にて 紅粉隊(ふじんたい)の香(かほ)りは烈女節婦(れつじょせつふ)の名(な)と後(のちの) 世迄(よまで)も芳(かんばし)きに共(とも)に国賊(こくぞく)の名を免(まぬが)れ ぬ女の不幸(ふこう)嗚呼(あゝ)憐(あはれむ)べし又惜(おし)むべし