今般(こんど)山鹿口(やまがぐち)に於(おい)て屢(しはしは)激戦(けきせん)/に賊軍(ぞくぐん)は畳(たたみ)二三でうづつ綴合(とちあは)せ/て水にしたし是(これ)を力士(りきし)に持(もた)せ/て真先(まっさき)に押立(おしたて)敵(てき)の間合(まあい)近(ちか)/付(つく)に従(したか)つて畳(たたみ)を三尺(しゃく)も差上(さしあぐ)/ると賊兵(そくへい)其下(そのした)よりくぐり出(いで)て/敵中(てきちう)へ斬入(きりいっ)て勝利(しゃうり)を得(え)る事(こと)/少(すくな)からずと言(いへ)り邂逅(たまに)大炮(たいほう)当(あた)/ると雖(いへ)ども畳(たたみ)と共(とも)に倒(たを)るるのみ/なり少(すこ)しも打抜事(うちぬくこと)なしとそ/此力士(このりきし)は西京(さいけい)の角力取(すまひとり)にて九刕(しう)/路(ち)を興行(こうげう)の折(おり)から暴徒(ぼうと)の為(ため)/に卒連(ひきつれ)られて戦場(せんじゃう)に仕役(しやく)せし/かど一人(にん)も死(し)せし者(もの)なしと辛(から)/く其群(そのむれ)と遁(のが)れて帰京(きけう)せし者(もの)の話(はなし)